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広島高等裁判所 昭和42年(行コ)21号 判決

控訴人

元田賢蔵

代理人

馬渕正己

被控訴人

大柿町

右代表者

尾世法雄

代理人

中川鼎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人の本訴請求は、本件各贈与契約の締結は旧法第二四三条の二第四項に規定する違法な契約の締結に該当するものとして、右契約の無効確認若くは取消を求めるものである。

ところで、本訴は、旧法第二四三条の二の規定に相当する新法第二四二条、第二四二条の二の各規定が施行された昭和三九年四月一日(前記法律第九九号附則第一条)より後である同年四月二一日に提起されたものであること記録上明らかであるから、本件につき、新旧いずれの規定を適用すべきかを定める必要がある。

前記附則第一一条第二項によれば、新法第二四二条および第二四二条の二の規定の施行前に旧法第二四三条の二第一項の規定によりした請求については、新法第二四二条および第二四二条の二の規定にかかわらず、なお従前の例によるものとされているところ、本件にあつては、前記の如く、控訴人が無効確認若くは取消を求める本訴請求は、新法第二四二条、第二四二条の二の規定が施行される前である昭和三四年一一月一六日から昭和三七年一〇月二日までの間になされた被控訴人の各贈与契約を対象とするものであつて、控訴人は、右各贈与契約は旧法第二四三条の二第一項に規定する違法な契約の締結に該当するとして、前同法条の施行前である昭和三八年一月一八日被控訴人大柿町の監査委員に対し監査請求をなし、右監査委員は、前同法条の施行前の同月三〇日右監査請求を却下したものである(上記日時に監査請求ならびに監査請求却下のあつたことは当事者間に争いがない)。

そうすると、本件は、前記附則第一一条第二項に徴し、旧法第二四三条の二の規定を適用して審理裁判すべきである。

二旧法第二四三条の二の規定による監査請求ならびに住民訴訟は、地方公共団体の理事者や職員の財改上の腐敗行為防止措置の一環として設けられたものであり、この制度は、もともと、地方公共団体の公金、財産、営造物等は、その住民の負担する公租公課から形成され、その使用、管理、処分は、いずれも住民全体の利益のために行なわれるべきものであるから、地方公共団体の理事者、職員の腐敗的な行為によつて蒙る団体の損失を住民の手で自ら防止、匡正し、もつて団体の利益を擁護することは、結局団体資産による利益の享有者であり、また、経費の負担者でもある住民各自の利益であるとの考え方を基礎としているものである。

右によつて明らかな如く、住民訴訟は、地方公共団体の公金、財産、営造物等にかかわる違法または不正な行為を防止、是正することによつて、住民全体の利益を擁護することを目的とするものであるから、右住民訴訟の対象となる行為として、前記第二四三条の二に規定する、地方公共団体の理事者や職員についての違法若しくは権限を超える契約の締結も、右理事者や職員の違法な契約の締結によつて、地方公共団体の公金や財産等に対し損害をもたらすような行為であることを要するものと解するのが相当である。

本件についてこれをみるに、控訴人が違法な贈与契約であると主張する本件各贈与契約の内容なるものは、いずれも、被控訴人大柿町と沿道住民との間に締結された、贈与者を右住民、受贈者を被控訴人大柿町とする金員の贈与契約であつて、被控訴人大柿町(その代表者大柿町長)の右贈与契約の締結につき、仮に、控訴人の主張するような違法無効事由があるとしても、右贈与契約の締結が、地方公共団体である被控訴人大柿町の公金や財産等に損害をもたらすような関係にはないから、前記第二四三条の二に規定する住民訴訟の対象事項に該当しないものといわねばならない。

因みに、控訴人の主張する本件贈与契約は、被控訴人と住民との間に締結された純然たる私法上の契約であつて、右贈与契約の効力を争うのであれば、各贈与者が被控訴人を相手として、その契約の締結に関する違法無効を理由に、贈与金員の返還を求めれば足りるものである。

三以上の理由により、控訴人の本件訴は不適法なものとして却下すべく、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がなく、棄却を免れない。

四よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。(宮田信夫 辻川利正 丸山明)

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